要注意!!不動産投資の思わぬ落とし穴

このテーマについては、私と古くからお付き合いして頂いており、また現在でも、不動産関連の案件について難解な問題が生じた際にコンサルティングをお願いしております、不動産コンサルタントの今井さんにお越し頂き、お話を伺っていきたいと思います。

  • 最初に、近年の政府や日銀の金融政策の影響で、株式投資やその他の投資商品についても、随分とたくさんご相談をいただくようになりました。加えて追い打ちを掛けるように、書店では「サラリーマン大家さん、○○億円投資成功術」などのような書籍も発刊されているようです。

  • 今井そうですね、不動産投資が、まるでブームのようになってきていますね。投資ばかりでなく相続対策にも関連して、不動産、とりわけ収益物件としてのマンションやテナントビルなどは売れ行きは良いようです。

  • ほう。相続対策に関連する取引も多くなってきているんですか?そうすると、税制というものが意外にも不動産取引量の増加に貢献している、なんて皮肉な結果になっているんですね。

  • 今井ただご存知のようにビジネスと考えるならば、どんなビジネスにもノーリスクというものは無く、特に不動産投資には、大きな資金を必要としますから、ミスをすると後々大きな問題を残すことにもなりかねません。周囲のざわめきに踊らされることなく、冷静にご相談に応じて行きたいと思います。

  • なるほど、そうですね。では、早速宜しくお願いします。

  • 今井宜しくお願いします。今回、投資物件を購入しようと検討中の、公務員のAさんからのご相談を取り上げたいと思います。まずAさんが現在、具体的に検討されているのは地方都市にあるワンルームマンションで、それを不動産業者に勧められているそうです。さてそこで考えてみて下さい。どうしてAさんはその物件を検討されていると思われますか?

  • おっと、いきなりですね(笑)。えーっと、地方都市とおっしゃいましたね?

  • 今井はい。これはあくまでも一般論ですが、地方都市のワンルームマンションといえば、典型的に投資用不動産を販売する、或いは斡旋する業者が不動産投資のビギナーに持ち込む案件のパターンなんです。

  • ですよねぇ。地方都市で本当に希望する物件があるのか疑問ですが。

  • 今井最初は大阪の新築ワンルームマンションを紹介されたそうですが、価格が1000万台後半からで、利回りは6%くらいだったらしく、初めての投資には高額ゆえに勇気が必要で、業者にもう少し安価で、しかも利回りの良い物件がないか尋ねたところ、地方都市の中古マンションで想定利回りが10%ほどの物件があると紹介されたそうです。

  • 確かに1000万円後半とは、少々手が出にくい物件ですね。しかも利回り6%とは。

  • 今井その地方都市の中古マンションは、現在、入居者が入居中の賃貸物件ですから家賃収入で返済の心配も無く、管理会社が家賃の集金から万一空室になった時の入居斡旋もしてくれるということに加え、物件を媒介する不動産業者が金融機関のローンの手配をしてくれて、全額ローンで購入できるということもAさんの購入意欲をかき立てているようです。

  • 初期投資なしでマンションオーナーですか?確かに、心動かされますよね。

  • 今井ええ、おまけに、その不動産業者は、Aさんに「ワンルームマンションへの投資は『節税対策』にもなりますよ。」っとダメ押しのフレーズまで付け加えています。

  • あららら〜。これまた、税制が不動産取引に、悪い意味で貢献しているんですね?(笑)

  • 今井ええ、まぁ、こういうのは不動産業者の常套手段ですからね。さて、ところで「節税対策」になるという点については、逆にお尋ねしたいのですが、正直な話、アリの話なんですか?ナシなんですか?

  • Aさんは公務員ですよね。ですので、投資されるまでは、給与所得者で確定申告が必要のない方です。そして投資をされた以後は、不動産所得が生じるため、給与所得と不動産所得を合算するために確定申告が必要になります。

  • 今井あ、そうですよね。まずは、確定申告の手間が増える訳ですね。しかも、税理士さんの前で申し訳ありませんが、これを税理士に依頼すれば、報酬も必要な訳で。

  • そうなんです。おっしゃる通りです。そしてこの場合、恐らくは、不動産賃貸業では損失が生じます。家賃収入以上に減価償却費と固定資産税、支払利息が計上されるためです。

  • 今井マンション1室だけを所有する区分所有の形態では、殆どこれですよね。

  • この不動産所得の損失は、給与所得と相殺されるため、払い過ぎとなった給与から徴収された源泉所得税が戻ってくる、と、このような構図だろうと思います。つまり、意図的に損失を発生させ、この損失を利用して所得税を低く抑える訳です。そういう意味では、確かに節税はかなっていると思います。

  • 今井そうですね。投資不動産を扱う業者は、必ずといっていいほど、節税や源泉所得税の還付を売り文句に使いますよね。同時に、ローンが完済されれば、以後の収入がプラスされると。

  • しかし、建物の減価償却が終了してしまえば、差し引く費用の多くは無くなってしまう訳で、不動産所得と給与所得が合算され、給与から差し引かれた源泉所得税だけでは足りず、確定申告で更に所得税を納付することになります。

  • 今井所得が積み上がるため、税率も上がりますよね。

  • よくご存知で。超過累進税率と言います。また、こういうマンション購入については、建物以外に敷地権、つまり建物敷地の一部分を購入することになると思いますが、この敷地購入に対する借入利息は、費用に計上することはできません。当然、家賃収入を順調に重ねていくことができれば、それで良いのですが、昨今の賃貸需要を考えると、節税目的だけでこのような不動産投資に踏み切ることには注意が必要だと思います。

  • 今井そうですね、物事には裏と表が背中合わせですからね。では、選手交代で、私の専門分野からリスクのご説明を申し上げます。

  • はい!待ってました!(笑)

  • 今井どこの場所でも、新築マンションは少々高めの家賃設定をしても、入居者はスグに決まるものです。当面は安定収入が得られますが、年数の経過と共に、また付近に同様の新築マンションが出来ると貸主は入居者に苦戦し始めます。

  • もう、その光景が目に浮かぶようです。

  • 今井ですから、新築であっても、ましてや中古物件の場合は特に「妥当な家賃設定」をベースに収入を考え、試算していく必要が有ります。媒介業者が売り文句に使う「想定利回り」あくまでも『想定』であり、確定では有りません。

  • 想定の妥当性について、検証が必要な訳ですね?

  • 今井はい。加えて、中古物件の場合は、設備関係(給湯器やエアコンなど)の修理や交換の支出、入居者退去時のリフォーム費用、また古すぎるマンションの場合はトイレ・風呂・洗面が1つのユニットになっている物件が多いので、専有面積に余裕が有ればトイレと風呂を分けるセパレートタイプにリフォームすることで入居者に魅力を出す必要もあります。

  • その話は、私も本で読んだことがあります。中古を購入してうまくリフォームし、家賃を上積みして賃貸する、と。

  • 今井ですから物件の価格が「安い」、つまり利回りが良いというだけで、慌てて飛び付くと大変な目に遭う恐れもあり、注意が必要です。

  • 数字だけで物件を考えてしまうと、「買い」な物件に見えてしまいますよね。でも、そうしたリスクが潜んでいるような物件に銀行が全額を融資するなんてことが有りますか?

  • 今井その点は不動産の分野でのお話ではなく金融機関の特殊事情だと思います。

  • ほう。金融機関の特殊事情ですか。

  • 今井私は融資すると言っている金融機関がどこなのかは知りませんが、金融機関によっては、担保物件に対する融資というより、借主の属性を見て融資する「人的担保」の傾向が強いところがあるようです。

  • うわ〜、そうなると投資に値しない物件でも、購入を検討してしまいそうになりますよね。

  • 今井ええ、そうなんです。つまり担保物件そのものではなく、借主のバックグラウンド、例えば資産家であるとか、医者・弁護士・公務員のような手堅い仕事の方で、返済できずに自己破産する恐れが極端に低い職業の方や、或いは万一の場合でも返済確実な連帯保証人が付くなど、そんな事を判断材料にして、融資が焦げ付かないで回収できるか否かで判断するようです。

  • まぁ、そりゃそーですよね。銀行さんもご商売ですものね。

  • 今井(笑)極端な話ですが、焦げ付きゼロで100%回収の見込みが有れば金融機関によっては、物件の価値など気にせずにドンドン貸しつける「貸し込み」をする所も有るようです。

  • それは恐い話ですね。

  • 今井恐いのはローンばかりでは有りません。リスクには先に述べました入居者が入らないというリスクの他にも、家賃の滞納や、事件や事故のリスク、入居者がダミーだった場合などもあります。

  • え?入居者ダミーって、何ですか?

  • 今井いや〜、これはかなり悪質な場合ですが、「入居中」つまり毎月家賃収入が有ることを前提に購入したら、1〜2ケ月後に「退去」するケースです。

  • そんなケースがあるんですか?

  • 今井全てが当てはまるとは言えませんが、売主または媒介業者の関係者が入居しているフリをして買主が購入後に退去することもあり得ます。

  • それって物件を購入させるための「詐欺」みたいなもんですね?

  • 今井はい、立派な「詐欺」でしょうね(笑)。更に酷い場合は、退去時の敷金返還金、数万円から場合によっては数十万円まで新たな買主が負担しないといけないなんて事も起こり得ます。

  • ひどいなぁ〜!こうしたリスクへの対応法って無いんですか?

  • 今井入居者がダミーか否かは絶対的な判断材料は有りませんが、私たちが賃貸契約書の中身を拝見すると時々不審な点を感じることが有ります。

  • なるほど。契約書の中のちょっとした違和感ですね?

  • 今井はい。また、家賃滞納リスクへの対処法は、経営基盤のしっかりした家賃保証会社への加入を入居条件にすることですね。

  • 単に保証会社へ加入すれば良い、というものでもないんですね。

  • 今井また、事件・事故への対処法では、火災保険や建物賠償保険の加入も一つの方法です。ただ入居者が自殺した場合などは自殺から1年間程度は賃貸不能、その後2年間程度は通常の家賃の半分位しか得られないという裁判所の判例などを考慮して、入居者にしっかりした連帯保証人を求め万一に備えることですね。

  • 連帯保証人を求めると、どうなるんですか?

  • 今井なぜなら3年間程度、貸主は借入れのローン返済に苦しむわけですし、その間も返済は待ってくれません。

  • そりゃ、そーですよね。そんな場合は、とても「節税対策」どころじゃないですもんね。しかも、収入が無くなったり、減ったりすると、それこそ返済がたちまち苦しくなりますよね。

  • 今井そうですね。家賃を下げれば、当然収入が減りますし、それ以外にも、退去時のリフォーム費用は、今までは入居者からの敷金や礼金などを充当するのか慣習的でした。でも、最近は賃貸仲介業者が敷金、礼金を丸取りするゼロネット物件などというものも多く見られますし、ゼロゼロ物件といって、家主は敷金・礼金を受け取ることはできず、その上仲介業者への礼金分を媒介手数料代わりに負担しなければ、入居者が入らないケースもあるので、地方物件などワンルーム需要の少ない地域は、特に空室になった場合のリスクを都市部より高めに見るべきです。

  • やはりAさんの投資話しはNGですね。それ以前に、ワンルームマンションへの投資って何も良いところがないような気がしますが。

  • 今井私はここまで否定的な事をお話してきましたが、必ずしもワンルームマンションへの投資がリスクばかりとは思っていません。

  • おぉ!ちょっと、その辺のところを聞いてみたいですねぇ。

  • 今井ワンルームマンション需要が多くて、入居率の高いエリアでは、入居者も見つけやすいです。新築なら望ましいでしょうが、中古物件でも妥当な家賃設定であれば入居者に困る事も無く、投資妙味はあると思います。

  • 立地条件勝負ですかぁ。

  • 今井勿論、それは重要な条件です。しかも、そんな場合、うまくすれば「節税対策」も期待できるんじゃないでしょうか?ですから「地域性」と「家賃の妥当性」にはお気をつけ下さい。また投資物件を選ぶ際には、流動性についても考慮する必要があります。

  • 流動性っていうのは、売りやすさみたいなものですか?

  • 今井そうです。ワンルームマンションの供給不足な地域や将来展望のあるエリア、おしゃれスポットとして発展していきそうなところでは、入居率が高まることも考えられますから、転売する時でも買主を見つけやすいです。こうしたことからワンルームマンションへの投資には、多角的に十分な調査が必要です。

  • ラクしてできる商売は、賃貸業であってもナイ!ってことですね。

  • 今井いや、ホント、そうですね。そして、大切なのは、「想定利回り」や「節税対策」という言葉に安易に浮足立つことなく、慎重に物件を選んでください。

  • これは、我々の立場からも、声を大にして言いたいですね。

  • 今井不動産に不慣れな人が、「売る」ためだけの媒介業者の美辞麗句に惑わされることなく、また間違っても表面的なことしか書かれていない「サラリーマン大家で資産○億」とか「20代OL 年収○○千万」のような投資入門の本に踊らされるのは、本当に危険なことですから、必ず信頼のおける専門家に相談するようにしてください。

  • 今後、益々、こういった分野の専門家が活躍する局面が増えていきそうですね。いやぁ〜今日はタメになる話をありがとうございました。

  • 今井私の方こそ、色々お話することで勉強にもなりました。ありがとうございました。

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